『精霊の守り人』 全26話(TVアニメ版) 第八話「刀鍛冶」

第八話「刀鍛冶」

チャグムは、鋭い振り音に目を覚ます、が、夜明けには未だ時間がある。

小屋から外を覗くと、バルサが月明かりに照らされ、槍の稽古を行っている。

「おはよう」

「やっと、起きたか?

まず顔を洗ってきな、朝御飯にするからね。

その後で今日は行く所がある。

鍛冶屋さ・・・」

チャグムが、バルサに連れられて訪れたのは、ヨゴ鍛冶職人の村だ。

「ヨゴの鉄は、ロタやサンガル、それと私の故郷のカンバルにまでその名が知れ渡っているくらいだからね。

そんな事も知らなかったのか?

お前は、未だ町の子供みたいに喋れないから、中に入ったら口を開かずに見ておいで」

チャグムは頷く。

「バルサ・・・」

「しばらく、ヨゴを離れていました。

相変わらず危ない橋を渡っていますが、悪運が強いせいか、どうにか生き延びております」

「そうですか・・・」

「早速ですが、見ていただけますか?」

バルサは槍を手渡す。

刀鍛冶は、刃こぼれしてガタガタの槍の切っ先を見つめる。

「これは、新しい槍(モノ)を打つしかありませんな」

「そうですか・・・では、急いで一振りお願いしたいのですが」

「その前に、一つ聞いておかなければならない事があります。

町の噂を耳にしていますね?」

「大体は・・・」

「私は噂されている事が、真実とは思いたくはない。

しかし、万が一、あなたが宮に弓を引いたという噂が本当なら、宮中に剣を納める者として、あなたに味方する事は出来ません。

弁明があるなら、まず、それを聞かせてください」

「いえ、宮に弓を引いたと言うのは本当です」

「とすれば、あなたが生きている事を、宮に伝えなければなりませんが・・・」

「それが、道理でしょうね」

「では、あなたはどうしますか?

私を斬ってでも、それを止めますか?」

「報告すると言うのなら、仕方ありません。

でも、私は打っていただけるまで、ここで、こうさせてもらいます」

バルサはその場に座り込む。

「んん・・・困りましたね。

あなたが頑固だという事は、重々承知しているが、私もそれ以上に頑固者だ。

事の顛末が分からない事には、あなたの頼みを聞けません」

「そちらの方は?」

刀鍛冶は、チャグムに目を移す。

「・・・」

チャグムは、バルサを振り返る。

「ある事情で預かることになりました」

「ほう・・・」

刀鍛冶は、しばらく目を閉じると、ある考えを二人にぶつけてきた。

「時に今、町の噂好き達が、バルサの事を何とおっしゃっているか知っていますか?」

「さあ?」

「金の為なら、何だってやる極悪人。

王子様が亡くなられたのも、本当は女用心棒に殺されたからだと、ふれ回っています」

「無礼な!

バルサは、そのような事は一切してはおらん」

「お止め!」

・・・

刀鍛冶は静かに頷くと、持ち場に腰かけ、ヨゴ鉄を打ち始める。

「実は、もうすぐ別の客が、出来上がった刀を取りに来る事になっています。

どうしても動かないというのなら、せめて、隣の部屋に移ってくれませんか?

双方から、話を伺ってみる事にします」

「失礼」

「どうぞ」

「御免」

二人連れが中に入って来た。

それは、モンとジンであった。

扉の向こうで、気配を消していたバルサに緊張が走る。

「早速だが、刀を見せて欲しい」

ジンが切り出す。

「刀は、あちらの部屋に用意してあります」

ジンは隣の部屋に歩み寄り、扉に手をかける。

「・・・」

扉一枚挟んだ向こうでは、刀の鞘を抜いたバルサが、ジン目がけて刃を突き立てる。

普通なら、ジンやモンほどの手練れなら、その殺気に気付くはず・・・?

しかし、バルサは完璧に殺気を消している。

武人としての技量が格段と違うのか、それに気付かぬジンとモン。

もし扉が開かれれば、バルサは間違いなく二人を斬り殺したであろう。

「お待ち下さい。

刀を見ていただく前に、是非、お二人にお話したい事があるのですが」

刀鍛冶の問いに、ジンの手が止まった。

「ヨゴ刀の良さとは何でしょう?」

「は・・・?」

ジンとモンは、それぞれのヨゴ刀の素晴らしさについて話出すと、モンは「そなたはどう思う?」と、刀鍛冶に問い返した。

「ヨゴでは、武人と鍛冶が互いの信頼に基づいて、刀を作り、そして使うという伝統がある。

そこに、究極の名刀が生まれる余地があると思うのです」

「究極の名刀?」

モンが返す。

「はい、人を斬らず、ただ、人の業だけを断ちきる。

それこそが、私の考える究極の名刀です。

いつの日か、そのような一振りを打ちたいと、常々考えております」

「名刀と妖刀は紙一重。

ならば、私は人を選んで刀を打つ。

そうせざるを得ない」

「究極の名刀を打ちたいと、そなたに思わせる武人は、果たしてこの世に何人いるものなのだろうか?」

モンが問う。

「そうですね、今までの人生において、たった一人だけそう思った方はいます」

それは、バルサの育ての親ジグロであった・・・

ジグロ:宮廷内の争い事に巻き込まれ、幼いバルサを託されカンバルを脱出した精鋭部隊最強の武人。しかし、追っ手として差し向けられたのは、苦楽を共にした精鋭部隊の友であった。既に亡くなっている。

「今思えば、私の腕もまだまだ未熟だった。

そのお方は実のところ、追っ手も親友も全員斬ってしまった。

私の打ったその刀で・・・」

モンが切り出す。

「実は偶然ながら、その武人に良く似た人物を、私も知っておるのです。

その者は、自分に一切関わりの無い人の子を、ある日突然託されて追っ手から逃げた。

そして、一度は奪い返されたその子供を、自らの命を危険にさらしながらも、取り返しに行ったのだ。

しかも、驚くべき事に自分を殺そうと迫りくる幾人もの追っ手を、その者はただの一人として殺しはしなかった。

奴はただ、目の前で散り逝こうとしている、か弱い命を黙って見過ごすことは出来なかった、だけなのかも知れません。

それゆえに、誰をも殺める事の無い至高の剣を振った」

「実に興味深い話ですね・・・その者は今、どうしてますか?」

「残念ながら、つい先日この世を去ってしまった・・・」

「・・・そうですか」

「その者なら、あるいはそなたの打つ究極の名刀を手にする資格があったのかもしれん、と思ったのだが・・・つまらん話をした」

「とんでもない」

刀鍛冶はそう言うと、扉を開け刀を取り出し、二人に手渡す。

「こちらこそ随分と、お引止めをしてしまいました」

「では、我らはこれにて失礼します。

ん・・!

もしや先客が来ていたのではないか?」

モンは、刀鍛冶の後ろに置いてある短槍に目を移す。

「ああ、それですか、確かに槍を預かっております」

「そなたほどの鍛冶が、槍ごとき雑兵の武器も打つのか?」

打ってもらった刃の、空気の斬り音を確認しながらジンが問う。

「気が向けば、槍だろうが打たせてもらいます」

「・・・実に、そなたらしい・・・失礼する」

モンは、確かにバルサの気配を感じた。

しかし、たとえバルサが生きていたとして、バルサに斬られなかった自分達に、扉の向こうにいる丸腰のバルサに迫る資格など無いと判断したのか、去っていく・・・

モンもまた、『究極の名刀を打ってもらうべく武人』として、バルサを認めたのだ。

「私の悪運も尽きたかと思いました」

バルサが隣の部屋から出てくる。

「どうぞこのまま、お帰り下さい」

・・・

「双方から話は聞かせていただきました。

七日後に、またお出で下さい」

第八話「刀鍛冶」終

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